最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)1221号 判決 1949年3月23日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人谷村唯一郎、塚本重頼上告趣意同第二點について。
舊刑訴第七一條(刑訴規則第五八條參照)には「官吏又ハ公吏ノ作ルヘキ書類ニハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外年月日ヲ記載シテ署名捺印シ其ノ所屬ノ官署又ハ公署ヲ表示スヘシ書類ニハ毎葉ニ契印スヘシ」とあり、また、同第六八條(刑訴規則第五五條參照)には「裁判書ニハ裁判ヲ爲シタル判事(裁判官)署名捺印(押印)スヘシ云々」とのみあって、裁判書に特に裁判官の官名をも記載すべきことを要求してはいないのである。されば、裁判書に裁判官又は裁判長なる官職名をも記載するのは、全く便宜に基く慣行たるに過ぎないものである。そして、原判決書には裁判官の表示並びに署名捺印が存し、該裁判官が公判に關與した裁判官であること原審公判調書により明白であるから原判決には裁判をした裁判官の署名捺印を缺く違法はなく、その慣例に基く裁判官の表示を「判事」としたのは正當であって原判決には所論の缺點は毫も存しない。本論旨もその理由がない。
同第三點について。
しかし、裁判の審級制度について、上告審を純然たる法律審すなわち法令違反を理由とするときに限り上告を爲すことを得るものとするか又は法令違反の外に量刑不當乃至事実誤認の上告理由をも認めて事実審理をも行うものとするかは立法を以て適當に決定すべき事項であって憲法の命令又は禁止するところでないから刑訴應急措置法第一三條第二項の規定が憲法第三二條に違反するものでないことは、當裁判所の判例とするところである(昭和二二年(れ)第五六號同二三年二月六日大法廷判決參照)。そして訴訟法は訴訟手續に關する法規であって、犯罪行爲に適用すべき実體法規ではないから、訴訟法上の行爲たる上告の理由についても上告手續を爲すべき時に着目して規定を設けるのが當然であって、所論のように、犯罪行爲時の如何により區別を設けねばならぬ理由は全然ない。しかも前示應急措置法の規定は上告に際し、人種、信條、性別、社會的身分又は門地の如何を問わず、何人に對しても等しく適用されるものであるから所論憲法第一四條に違反するところは毫も存しない。されば所論憲法違反の主張はその理由なく、從って、その違憲を前提とする量刑不當の主張も採るを得ない。(その他の判決理由は省略する。)
よって舊刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。
右は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介)